第3章-8 生殖系

 魚類が陸棲化するためには魚類型の卵から羊膜を持った卵へと変わる必要があった。しかし、この過程は化石記録が少ないこともあり、あまりはっきりしていない。

 

両生類は成体の上陸には成功したが、卵の陸生化が出来ず水環境を離れることが未だに出来ない。一方、羊膜類の多くは生活史のほぼ全体に渡って水環境を離れることが可能である。エンボロメリ類や初期爬虫類が水棲だったことから、ローマーは「エンボロメリ類が尿膜を持った卵を作り出し、卵の陸生化を達成し、その後成体も陸棲化した」という説を出している。即ち、哺乳類や爬虫類のように完全な陸棲化が可能になったのは、耐乾燥性のある羊膜卵を進化させたからであり、卵の陸棲化が可能になったかなり後になって成体の陸棲化を果たした、と考えた(Romer 1958)。しかし、その後の研究により、羊膜が無くても現生両生類に見られるように地上(地中)に卵を産み、安全に孵化させることが出来ることが分かった。また、卵の完全な陸棲化、即ち硬い卵殻を持ったのは三畳紀中期である。こういったことから「卵の陸生化が先行した」とするローマーの仮説は現在では否定的に見られているようである。

 

 現生両生類では、数千個の卵を産む種類からただ1個の卵を産み育てる種類もあり、産卵数は生態環境と密接に結びついている(クラック)。また、現生両生類の卵や産卵方式は魚類のそれに似ている。両生類の卵は産卵後受精し、その卵はゼラチン状の皮膜で覆われており、この皮膜を通して胚に酸素や水が供給される。酸素や水の供給を可能にするために卵のサイズは一般に直径1.5ミリ以下と小さく、全分割方式で細胞数を増やしていく。卵のサイズを大きく出来ないため、産卵された卵から鰓を持った小さな幼体として孵化し、ある時間を水中で過ごし成長した後に変態して成体になるが、成体になるまでは水を離れることが出来ない。

 

 アカントステガやイクチオステガといった初期四肢類は両生類とされているが、どのような生殖戦略をとっていたのかはほとんど分かっていない。しかし、現生カエルに比べると初期四肢類の多くは大きな体躯であり、初期四肢類が現生カエルのように卵塊を産む方式を採用していた可能性は低いと予想される。また、生態環境は現生両生類とかなり異なっていたであろう。初期四肢類は棲息していた環境において食物連鎖のトップに位置する捕食者であったと思われ、少産型のKタイプの生殖戦略を採っていた可能性が高い。

 

卵は魚類の特徴を引き継いでいたと考えられ、ガス交換と水分保持の機能が充分でなかったと思われるので(Urashima et al. 2004)、卵の大型化は出来なかったであろう。卵黄が大きく出来なければ、孵化した幼体は非常に小さいことになる。しかし、成体の大型な体躯からは孵化後の幼体がそれほど小さかったとは思われない。

現生両生類のサンショウウオ類、アシナシイモリ類は体内受精を行っている種類が多い。また、シーラカンス類や軟骨魚類も体内受精を行う卵胎生であり、最近では古生代に棲息していた板皮類も胎生であることが明らかになった(Long 2008)(Ahlberg 2009)。また、Eusthenopteron が成体のミニチュア形態で産出していた可能性が指摘されている(Cote et al. 2002)こういったことから、初期四肢類は卵胎生であった可能性が考えられる。卵胎生であればかなり成長した形で産出されることになり、少産型のKタイプの生殖戦略とも合致する。

 

現生哺乳類の祖先系は単弓類とされ、羊膜を持っていたと考えられるウェストロシアーナは338Mya頃に出現している。初期単弓類の卵は既に羊膜や老廃物貯蔵嚢を持ち、ガス交換能や栄養補給、老廃物処理機能に優れていたので大きな卵黄を持つことが出来たとする説が有力である(Urashima et al. 2004)。しかし卵殻はまだ羊皮紙状であり、現生トカゲやヘビの卵と同様環境土壌から水分を吸収することで卵の乾燥を防いでいた可能性がある(Muth 1981)羊膜卵の胚は、卵黄を大きく出来たのでオタマジャクシ型の幼体ではなく成体のミニチュア型の体型まで成長して孵化することが出来るようになったであろう(クラック)

さらにまた、初期単弓類は卵胎生であった可能性も考えられる。寒冷地での繁殖にとって胎生は有利であったろう。産卵されただけでは低温により発生が困難な環境でも、胎生ならば母体が意図的に日光浴などで体温を一定以上に保つことが出来、胚発生に必要な温度を保つことが出来る。卵胎生の方が卵塊を産む方式よりも胎生へと移行しやすいと類推される。なお卵胎生と胎生の境界は明確ではないので、最近は両方を区別しないようである。

一方、現生爬虫類の祖先系は哺乳類の祖先系とされる単弓類より23Myほど遅れて、プロトロチルス目のヒロノムスが315Myaに、双弓亜網のペトロラコサウルスが300Mya頃に出現している。最初の爬虫類出現後75Myほど経た240Mya頃に、卵殻の形成と保水性の高い卵アルブミンから成る卵白の獲得により、水分の蒸散が抑えられ、卵内に水分貯蔵が可能になった。これにより水辺以外にも棲息域を拡大できたとされる(Barrett 1997)